
内容は、凡庸といってよい。宇宙人による誘拐(アブダクション)、強制的な生殖行為によって生まれた宇宙人とのハーフの子ども、深夜に家の戸を叩く謎の男女3人、家の外壁を照らす謎の光と、その光で灼けた外壁を取り替える謎の修理屋、宇宙人による奇跡的な外科手術、数学や物理の知識がないのに難解な方程式を書く、等々。
宇宙人が実在するという、おびただしい証拠が提示されるが、それは全てフェイクであってもおかしくない。そして彼の周囲の人々は、ありがちなパターンを踏襲して、パートナーの女性を含めて、彼は「まともな人間」だと証言するのだ。
彼、スタン・ロマネクは、実在する人物である。インタビューに応える彼は、とても誠実そうだ。識字障害だったせいで、特殊学級に入れられ、教師からいじめられた記憶を語る。地域に白人の子どもは彼1人で、ギャング団に絡まれ、おかげで喧嘩が強くなったとも。
空飛ぶ円盤に遭遇するまで、彼には、蔑まれ続けた人生があった。ありていに言えば、彼はアブダクションの経験者となることで、“特別な人間”になったのだ。宇宙人から特別な役割を与えられ、選ばれた存在になることで、彼の人生は陽転したのだ。
だが、そのあまりにも陳腐な筋書きと、登場する空飛ぶ円盤や宇宙人の、あまりにも教科書的なエピソードが、番組を見ているうちに、得体の知れない恐怖に転化してゆく。もし宇宙人がいるとしたら、なぜ人間よりも遥かに聡明なはずの彼らが、こんな信用できそうにない男とコンタクトを試みるのか。

恐ろしいのは、エピローグの衝撃的な出来事を含め、彼の主張を100%否定できないことだ。可能性がわずか1%だけでも、このドキュメンタリーで繰り広げられる彼の「妄言」や「証拠」は、私たちが認識している世界に亀裂をつくる。その亀裂とは、地球というもの自体が、はなから宇宙に実在していないかもしれないという疑念である。
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