アンドロイドが登場するSFドラマは、物語の展開が決まっている。自分のことを理解してくれる“機械”に恋をしてしまうのだ。そしてアンドロイド自身も、いつしか感情らしきものを持つようになる。だがもちろん、人間とアンドロイドの間には超えようのない溝があるから、物語は悲劇的な結末を迎えることになる.
「Her」の新しさは、相手がアンドロイドではなく、“肉体”を持たない“声”だけの存在であることだ。コンピュータの中の人工知能の彼女は、ビッグデータを基にディープラーニングで日々進化してゆく。ビッグデータの中には人間の感情も膨大に蓄積されているから、当然のことながら人間的な感情を巧みに表現できる。
でもそれは本当の感情なのだろうか? というのが、この映画のテーマである。もともと人間だって、電気回路で出来た脳で動いているのだから、一種の人工知能と言える。偉そうに「感情」などと言っているけれど、ただの電気信号の組成に過ぎないのだ。だとしたら、人間と人工知能に、どんな違いがあるのだろう?
主人公を演じるのは、ホキアン・フェニックス。凡庸になりがちな物語展開を救っているのは、彼の不思議な存在感ゆえである。どんな映画に出ていても“場違い”な印象を与える独特の雰囲気が、この映画でも全開。いい意味で、物語の座り心地を悪くさせてくれる。
人工知能学者によっては、コンピュータが人間を超越するシンギュラリティなどやってこないと言う。人工知能に劇的な進化をもたらしたディープラーニングは、そもそも人間があらかじめ正解を与えることで成立するシステムだからだ。
けれどもこの映画のように、人工知能が学習によって人間以上に適切に感情を表現することは、もはや十分に可能だ。哀しいときや辛いときに、寄り添ってくれる“声”が側にいたら、人間はそれ以上の何を求めるだろう? だが、悲劇はそれでもやってくる。なぜなら人間は、人工知能のように学習によって進化できる存在ではないからだ。
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