エピソードの最初の部分をディーザーという。多くのテレビドラマでは、短いディーザーの後にタイトルが出る。ディーザーとはいわばメインディッシュの前の前菜のようなものだが、ブレイキング・バッドのディーザーはとても暗示的で、それが大きな魅力だった。

たとえばプールに目玉が浮かんでいる。人間の目玉ではない、ぬいぐるみの目玉が取れて浮遊している。なぜプールに目玉が? そのディーザーは、何話かのエピソードに連続して登場するが、不吉な予感はするものの、しばらく何のことかわからない。だがやがて、それが大きな事件、エピソードを左右する象徴的な事件の顛末だと知ることになる。
ブレイキング・バッドを見るたびに、ディーザーが楽しみになる。ディーザーのおかげで、視聴者はそのエピソードが完璧にコントロールされていることがわかり、安心する。すぐれた物語には、すぐれたディーザーがつきものなのだ、たぶん。そして自分の日常生活にも、そんなディーザーがあったらいいなと思い始める。あるいは、本当はあるのだけれど、気づいていないだけなのかもしれない、と考えたりもする。

印象に残るのは、舞台となったニューメキシコ州アルバカーキの風景である。撮影も実際にそこで行われたという。いつも空が青く突き抜けている。グラデーションがかかった深い青。白いブリーフ一丁で佇むブライアン・クランストンの背後にあるのは、いつもアルバカーキの青い空で、最終話を見終えてから、それが物語全体のデューザーだったのだと知る。すなわち、麻薬王となる彼が開発した“ブルーメス”の象徴だったのだ。
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